持続可能な水産物を見極める:MSC・ASC認証の基準と選び方
導入:なぜ持続可能な水産物の選択が重要なのか
世界の海洋資源は、過剰な漁獲、海洋汚染、そして気候変動といった複合的な要因により、深刻な危機に瀕しています。これにより、海洋生態系のバランスが崩れ、漁業コミュニティの持続可能性も脅かされています。消費者が日々の買い物で倫理的な選択を行うことは、こうした問題への意識的な貢献となり、持続可能な未来への重要な一歩となります。
本記事では、持続可能な水産物を見分けるための具体的な方法として、国際的な二大認証制度である「MSC認証」と「ASC認証」に焦点を当て、それぞれの基準、そして実際の製品選択における活用方法を詳しく解説します。
MSC認証:天然水産物の持続可能性を保証する「海のエコラベル」
MSC(Marine Stewardship Council:海洋管理協議会)認証は、持続可能で適切に管理された漁業で獲られた天然の水産物に与えられる国際的な認証制度です。この認証は、乱獲を抑制し、海洋生態系を保護することを目指しています。
MSC認証の3つの原則
MSC認証を取得するためには、漁業が以下の3つの主要な原則と、それぞれに付随する詳細な基準を満たす必要があります。
- 持続可能な漁業資源:
- 漁獲対象の資源が健全なレベルで維持されていること。
- 資源を回復させるための管理計画が適切に実施されていること。
- 科学的根拠に基づき、漁獲量が資源の再生能力を超えないように制限されていること。
- 環境への影響の最小化:
- 漁業活動が海洋生態系(非漁獲対象種、生息地、食物網など)に与える悪影響を最小限に抑えていること。
- 絶滅危惧種や希少種の混獲を避けるための対策が講じられていること。
- 漁具が海底に与える影響を軽減する工夫がなされていること。
- 効果的な管理システム:
- 漁業が、地域、国内、国際的な関連法令や政策を遵守していること。
- 漁業管理システムが透明性を持って運営され、継続的な改善努力が行われていること。
- 利害関係者(科学者、NGO、地域コミュニティなど)との協議が適切に行われていること。
製品パッケージに青色の「海のエコラベル」が記載されていれば、その水産物はMSCの厳しい基準を満たした漁業で獲られたものです。
ASC認証:養殖水産物の責任ある生産を保証する「養殖のエコラベル」
ASC(Aquaculture Stewardship Council:水産養殖管理協議会)認証は、環境に配慮し、地域社会と労働者に配慮して生産された養殖水産物に与えられる国際的な認証制度です。養殖業の急速な拡大に伴う環境負荷や社会問題の解決を目指します。
ASC認証の7つの原則
ASC認証を取得するためには、養殖場が以下の7つの主要な原則と、それぞれに付随する詳細な基準を満たす必要があります。
- 生物多様性の保全:
- 養殖場が周辺の自然環境や生態系に悪影響を与えないこと。
- 生息地の破壊や外来種の導入を避けること。
- 水資源の保全:
- 養殖場からの排水が水質基準を満たし、周辺の水域を汚染しないこと。
- 水資源の効率的な利用がなされていること。
- 飼料の責任ある調達:
- 飼料の原料が持続可能な方法で調達されていること。
- 野生魚を飼料とする場合は、その漁業が持続可能であること(MSC認証の取得など)。
- 動物の健康と福祉:
- 抗生物質や化学薬品の使用を制限し、病気の予防と管理を適切に行うこと。
- 養殖される魚介類が健康で、ストレスの少ない環境で飼育されていること。
- 地域コミュニティとの良好な関係:
- 地域住民の生活や文化に配慮し、雇用創出など地域社会への貢献を行っていること。
- 地域住民との対話を通じて、紛争を回避し、共存を図ること。
- 従業員の適切な労働環境:
- 国際労働機関(ILO)の基準に則り、安全で公正な労働条件を提供すること。
- 児童労働や強制労働を排除すること。
- 法令遵守と透明性:
- 関連するすべての国内・国際法規を遵守し、運営の透明性を確保すること。
- パフォーマンスデータを公開し、継続的な改善努力を行うこと。
製品パッケージに緑色の「養殖のエコラベル」が記載されていれば、その水産物はASCの厳しい基準を満たした養殖場で生産されたものです。
日々の買い物でMSC・ASC認証製品を見分ける実践的な方法
消費者が持続可能な水産物を選ぶための最も直接的な方法は、製品に表示されているMSCまたはASCのエコラベルを確認することです。
1. エコラベルの確認
スーパーマーケットや魚屋、レストランで水産物を購入・注文する際、以下のロゴを探してください。
- 天然水産物: 青色の「MSC海のエコラベル」
- 養殖水産物: 緑色の「ASC養殖のエコラベル」
これらのラベルは、製品が認証されたサプライチェーンを通じて消費者に届けられたことを示しています。
2. 製品情報の確認
一部の認証製品は、ウェブサイトなどで個別の認証番号やトレーサビリティ情報を提供しています。これにより、製品の起源や認証状況をさらに詳しく確認することが可能です。
3. 認証団体のウェブサイトを活用する
MSCジャパンやASCジャパンの公式ウェブサイトでは、認証を取得している製品や企業、小売店、レストランなどの情報を公開しています。特定の魚種や製品を探している場合、これらの情報を参照することで、購入可能な場所を見つけることができます。
- MSCジャパン: 認証製品の検索や認証漁業に関する情報を提供。
- ASCジャパン: 認証製品の検索や認証養殖場に関する情報を提供。
認証以外の視点:より深い倫理的選択のために
MSC・ASC認証は強力な指標ですが、エシカルな消費には他にも考慮すべき点があります。
- 旬の魚を選ぶ: 旬の魚は資源量が安定していることが多く、美味しく、比較的安価な場合があります。
- 地元の魚を選ぶ: 地元の漁業を応援し、輸送による環境負荷を軽減することに繋がります。
- 魚種を多様化する: 特定の魚種に消費が集中すると、その資源に負担がかかります。様々な種類の魚介類をバランス良く取り入れることを意識してください。
- フードロス削減: 購入した水産物を無駄なく消費することも、持続可能な食生活の一部です。
結論:消費者の選択が海洋の未来を築く
MSC認証とASC認証は、私たちが日々の食卓に並ぶ水産物が、持続可能な方法で獲られたり養殖されたりしているかを見極めるための明確な基準を提供します。これらのエコラベルを意識的に選択することは、単なる個人的な消費行動に留まらず、乱獲や環境破壊に歯止めをかけ、海洋生態系、ひいては地球全体の持続可能性に貢献する具体的な行動となります。
消費者が賢明な選択を重ねることで、市場は持続可能な製品への需要に応え、より多くの企業が倫理的な生産・調達へと舵を切るインセンティブとなります。ぜひ、今日からMSC・ASCのエコラベルを探し、持続可能な水産物の選択を通じて、豊かな海の未来を共に築いていきましょう。